神の手

872 :本当にあった怖い名無し:2010/05/18(火) 23:58:01 ID:+tknK7QW0
 
厳密に言うと、この話は俺が『洒落にならない位怖い』と思った体験ではない。 
俺の嫁が『洒落にならない位怖い』と思ったであろう話である。 

おれの嫁は俗に言う『みえる人』で、俺は2ちゃんでいう『0感』。
嫁がまだ恋人の頃、見える人である事を俺に明かし、
その後しばらくの間、「あそこに女の人が居る」だの「今足だけが階段を昇っていった」だの言い出し、 
俺が本気で遺憾の意を表明した時から、一切それ系の実況をしなくなった。 
だがつい先日、何故か俺にもはっきりと不可思議な物が見え、 
その時の嫁の反応を以ってここに投下し得る話と思い、書いてみる事とする。 


873 :本当にあった怖い名無し:2010/05/18(火) 23:59:58 ID:+tknK7QW0
 
山菜採りが好きな俺と嫁は、いつもの如く山道を車で通行していた。 
しがない自営業の俺等は、昨今の不況の折に開き直って、
平日の昼間に日がな半日程度、山菜採りに精を出していた。 
比較的心地よい疲れに伴い、今日の夕飯は何かな、天婦羅はもう暫く要らないな。 
とか思いながら、ボケっと運転していた夕刻。 
自分の車の前を走る、シルバーの軽。
暑い日だったので、前を走る軽の助手席の窓から手が生えて見える。
運転者は老齢であろう、決して生き急いでないのが見て取れる様に、40k巡航である。
ここまではよくある光景で、次のストレートで追い越しかけるか、と思っていたその矢先、
嫌な事に気付いて、しまったと思った。
その軽の助手席の窓から『手』が生えて見える。『腕』じゃなく、『手』。
指まではっきりと認識できる、バナナよりも巨大な手が、前を走る軽の窓枠をがっちりと掴んでいる。 

嫁はともかく、今までそんなものが見えた事のない俺は総毛だった。
すぐさま嫁にに視線を移すと、
以前はこういう不可思議な現象に対しても、ヘラヘラ笑いながら俺に実況していた嫁が、
目を見開いて硬直している。 
常時見えている人間にとっても只事では無い事例であろう事が、0感の俺にも容易に推測できた。 
そしてその『手』は、こちらの熱視線に気付く風でもなく、新たな行動をし始めたのだ。 



874 :本当にあった怖い名無し:2010/05/19(水) 00:01:51 ID:+tknK7QW0
 
その『手』は掴んでいた窓枠を離し、にゅーっと虚空に伸び始めた。 
その手首には、タイの踊り子の様な金色の腕輪が付いている。 
肘が車外に出ても伸び続け、肩の手前位まで車外に出した。 
とんでもなでかさ。そして、やにわに軽の天井を叩き始めたのだ。 
「ぼん、ぼん、ばん、ばーん、ばん、ばーん」
という音が、すぐ後ろを走る俺等にも聞こえてくる。 
そのときの俺はというと、目の前で起こっている映像に脳の認識がついていかず、 
ただそのままぼーっと軽を追従していた。 

「停めて!!!」 
嫁の悲鳴交じりの声が、俺に急ブレーキをかけさせた。
前輪が悲鳴を上げ、前のめりのGを受けながら、俺の車は急停止した。 
今まで眼前にあった、天井を叩き続ける巨大な手を生やした軽は、
ゆっくりと遠ざかっていき、その先のカーブから見えなくなった。 


875 :本当にあった怖い名無し:2010/05/19(水) 00:03:15 ID:UzhH9m/U0
 
夕暮れに立ち尽くす俺の車。
嫁は頭を抱え、小刻みに震えている様にも見える。 
俺も小便がちびりそうだったが、努めてなるべく明るく、嫁にまくしたてた。 
「なんだよ?お前いっつも笑って解説してたじゃん。あんなのいつも見てたんだろ?
 今回俺も見えたけど、すげえなあれは」
暫くの静寂のあと、嫁が口を開いた。
「・・・あんなの、初めてだよ。・・・アンタは、気付かなかったろうけど」 
「なにがよ?」
「あの腕、邪悪な感じがしない。かなり上位の存在だよ」 
「・・・じゃあ良い霊とか、神様じゃね?運転手が悪い奴で、なんかそんなんじゃないの?」 
「そんな訳無い、絶対におかしい。あんな上位の存在が、あんな行動するわけがない。 
 やっている事は悪霊そのもの。だけどあの腕は光に包まれてた。 
 分からない。自分の無知が怖い。・・・怖い。頭がおかしくなりそう・・・」 

嫁の話を聞いていると俺も頭がおかしくなりそうだったので、
わざわざUターンしてその現場から離れ、実家には帰らずに居酒屋に直行。
二人で浴びるほど酒を呑んで、近くのビジホで一泊した。

あの手は一体何だったのか、俺は未だに全く理解できない。 
ただ、あんな体験はこれっきりにしたいもんだ、と心底思った。


167 :本当にあった怖い名無し:2010/05/24(月) 22:51:05 ID:ft3t+mck0
 
まとめのPart241っていうか前スレの『手の行動』っていう話。 
『新耳袋』の、何巻だったか忘れたけど、
戦争にまつわる話っていうやつの中に、
終戦直後(?)、南の島で、敗残した日本兵たちの収容所に、 
夜な夜な地元の人たちが信じている『神様』のものすごくでかい手が屋根から出てきて、
ぐるぐる部屋の中を回転し、日本兵を掴んで床や壁に叩きつけるので、
日本兵たちは一睡もできず、壁に張り付いて朝が来るのを願っていた。 
兵隊たちは、
「島の人たちには神様なのかも知れんが、あのでかい手は神様なんかじゃない。化け物だと思った」 
という話が載ってるのに、似ていると思った。 

『手の行動』で、手が生えている車の運転手が高齢なことから、 
もしかしたらその老人も戦争で、南の島に出兵していたことがあったのかもしれない。 
そこでその島の守り神をくっつけて日本に帰ってきて、戦後65年の今でも、くっついたままなのかもしれない。
島の守り神にとっては、日本兵は自分の民を脅かす敵だから、悪霊的に恐ろしいことをするけど、
本質はきちんと崇拝されてきた神さまなので、神聖さを失わないのでは。