零戦乗り

656 :本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 22:40:34.28 ID:hCQa0QHa0
 
今年大往生した母方の祖父ちゃんは、零戦乗りだった。 
戦中予科上がりだけど、特乙や特丙よりも前に出たので、 
それなりに操縦士の中でもエリート意識はあったらしく、飛行時間をよく自慢していた。 
こっちから聞けば積極的に当時の話を聞かせてくれた。 
その中で印象に残ったいる話を一つ。


656 :本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 22:40:34.28 ID:hCQa0QHa0

1944年、祖父ちゃんは台湾海軍航空隊に所属していて、台湾に住んでいた。 
本土から呼ばれて宿舎に空きがなかったので、基地近くの台湾人の人の家に下宿していた。 
その家には台湾人の老夫婦が住んでいて、いつもとても良くしてくれるので、 
小さい頃に母親を亡くしていた祖父ちゃんも嬉しくて、奥さんの方を「台湾のお母さん」と呼んで、
親孝行の真似事なんかもしていたらしい。 




657 :本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 22:44:41.42 ID:hCQa0QHa0

 
そしたら夏の暑い盛り、いつも元気なお母さんが寝込むようになった。 
祖父ちゃんも心配して、薬を工面して渡していたりしたらしいんだが、なかなか回復しない。 
ある日枕元に座っていたら、お母さんがこんなことを言った。 
「実は飛曹(祖父ちゃんは他の人から○○飛曹と呼ばれてた)さんが撃ち落されて戦死する夢を見たことがあった。 
 夢見が悪いだけかとも思ったが、もし正夢だったら大変だ。折角できた息子が死んでしまう。 
 なので神様にお願いしたら、代わりがいると言われたので、私と代えてもらうようよくよく頼んだ。 
 私はもうすぐ死ぬが、これで飛曹さんは大丈夫だ」 
祖父ちゃんは、きっと病気で気弱になったのだろうと思って、大丈夫ですよと答えたそうだ。 
旦那さんに聞いてみると、 
「『敵をたくさん撃墜できますように』のようなお願いの方が軍人さんらしいが、 
 うちの神様は『敵を殺したい』のような悪いお願いはしてはいけない」
と答えた。 


658 :本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 22:45:43.77 ID:hCQa0QHa0
 
そんで10月の台湾沖航空戦。台湾海軍航空隊も米軍迎撃のために出撃。 
結果は知ってのとおり壊滅だ。祖父ちゃんの同期もほとんどが未帰還になった。 
祖父ちゃんも撃墜されたが、機が火を噴かず落ちて、幸運にも着水脱出。 
とはいえ、島影も見えない海のど真ん中にプカプカと浮かんでる状態で、 
このまま漂流して死ぬのか、と思っていると、なんと台湾から出漁していた漁船が通りかかり、 
「日本人だ! 助けてくれー!」と叫んで、引き上げてもらい、無事生還。 
下宿に帰ってみると、お母さんは亡くなっていた。 
旦那さんに尋ねると、ちょうど祖父ちゃんが出撃して飛んでいる時に亡くなったそうだ。 
何の神様に祈ったのかは分からない。